「感染症の流行を天気のように予報する」 −日立社会情報サービスが描く感染症との共生社会−
感染症の脅威に直面した社会において、日立製作所と日立社会情報サービスは「感染症予報サービス」を提供することで、人々が安心して暮らせる社会を実現する社会イノベーション事業を推進している。同サービスは、インフルエンザなどの感染症の流行をビッグデータとAIを組み合せて予測し、4週間先までの予報を通知する。天気予報がその日の行動を変えるように、感染症も予報を通して対策を強めるなど行動変容につながるサービスを目指す。
ビッグデータとAIを活用した感染症予報サービス
「感染症予報サービス」はAIによるビッグデータ解析に基づいた感染症流行の予測サービスであり、日立製作所が研究開発し、日立社会情報サービスが提供を開始した。全国の医療機関から収集した感染症の罹患者数のオープンデータと、過去の流行地域や時期などの多様なデータを組み合せて分析する「流行予測AI」を活用している。感染の流行度をレベル0〜レベル3までの4段階で分類し、4週間先までの予報を市区町村ごとに色分けして表示することによって、直感的でわかりやすく伝えることができる。埼玉県さいたま市(人口約133万人)をフィールドとした実証実験では、まずはインフルエンザの予報サービスとして活用が進んでいるが、今後様々な感染症の流行予測に応用を考えている。
従来では感染症が流行した際に慌てて予防に取り組むことが一般的であり、予防行動に関して感覚的な判断に頼る部分が大きかった。同サービスを通じて、自律的な判断に役立つ情報を提供する事で、人々はリスクに備えた事前行動が可能となる。
ウイルスとの共生に向けた社会課題の解決
感染症が社会に与える影響は大きく、医療費の増大や子どもを抱える共働き家庭への負担など、さまざまな課題を抱えている。国立感染研究所のデータによると、2020年~2021年シーズンに、インフルエンザが全国的な国内流行期に入らなかったのは、過去10年で初めてのこと。しかし新型コロナウイルスが猛威を振るう中、冬の乾燥した時期には、新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行「ツインデミック」による医療現場の逼迫も懸念されており、予断を許さない状況だ。
住民の一人一人が感染症に対しての意識を高めることで、感染症の流行を阻止することができ、ひいては医療機関の混乱や社会保障費の抑制にもつながっていく。
今後、様々なウイルスと共生していくことは人類にとっての大きな課題である。これまでのように、すでに発生した過去の罹患者情報のみで判断していた感染流行を、同サービスが浸透することで未来の予報に合わせて今の行動を変えることが当たり前になるかもしれない。事実、実証実験を行ったさいたま市民はコロナ禍でも同サービスを有効と感じている。
2020~2021年シーズン
令和2年度数字でみる実証実験の結果
- インフルエンザ情報は、“感染者数など過去のデータ”より“これから先の予測”が重要。
従来のページと比較して、予報サービスには5倍以上のアクセス数 - インフルエンザ情報をきっかけに、市公式LINE友だち登録者数54%増
- 予報サービスの継続配信を希望した利用者は、約70%
- 利用者の積極的な予防行動を促し、約80%が行動変容につながると回答
- 予報サービスに関する意見やクレームなどの問い合わせ0件
同サービスは、2019年12月から埼玉県さいたま市で初めての実証実験を開始し、3年目を迎えている。新型コロナウイルスの拡大以前からの取り組みで、様々な企業や団体とも協業しながら市民への情報発信などコミュニケーション面でも改善を行っている。
埼玉県さいたま市での感染症予報実証実験(21〜22年版)
今週のインフルエンザ予報
〜感染症予報サービス 埼玉県さいたま市での実証実験〜
今週:2月28日週「レベル1」
来週:3月7日週「レベル1」
※日立社会情報サービスの感染症予報サービスの数値を基に制作しています
地図をクリックすると市区町村ごとの詳細データにリンクします
インフルエンザ発生状況
全国のインフルエンザ定点あたり報告数
2022年7週(2月14日〜2月20日)
総数:26件
昨年同期:49件
※出典:厚生労働省
最終更新日:2月28日(月)
最新情報
事例紹介:埼玉県さいたま市
スマートシティの実現へ、感染症予報で市民生活のQOL向上を
インタビュー:さいたま市未来都市推進部
有山 信之(ありやま のぶゆき)氏
有山 信之(ありやま のぶゆき)氏
―さいたま市として感染症予報の実証実験を行う意義
さいたま市では「スマートシティさいたまモデル」として、AIやIoT、データを活用した新たなサービスを開発するとともに、人と人が中心となる地域コミュニティの醸成を併せて推進し、市民生活のQOL(生活の質)を向上させる取り組みを行っています。通常の行政サービスのプラスアルファになる部分を民間企業の力を借りながら分野横断的に実践しており、感染症予報サービスに関してもその一環となっています。行政として情報発信による行動変容を通して感染症を抑制することで、経済損失を防ぐとともに市民の安心安全を守っていきたいと考えております。
―実証実験の内容と成果は?
19年から開始した実証実験はさいたま市全域を対象に4週間後のインフルエンザの流行予報を発信しました。実証後のアンケート結果では、インフルエンザ予報の情報配信が実際の行動変容につながっていることがわかりました。これは、配信する情報の中に、予報だけでなく日本ヘルスケア協会さんからいただいた感染症予防対策のアドバイスを加えていることも効果的だったと考えています。アドバイスでは、手洗い・うがいなどの一般的なものから、睡眠など、感染症予防につながる意外と知られていない情報を交えることで、市民の方々にも興味を持っていただいたと思います。また、今年からは埼玉県全域を対象にしたインフルエンザ予報も発信しています。このように対象となる地域が増えることで通勤・通学にも活用できる情報となるなど、より多くの方にとって有用な情報になると考えております。
―感染症に対する市民の変化は?
新型コロナウイルスの拡大で、感染症に対する意識は大きく変わったと考えています。保健所や医療現場が逼迫する中、市役所の職員としても地域経済の停滞を目の当たりにしてとても危機感を感じました。緊急事態宣言下での、多くの市民の方々の感染症への関心や不安の現れだと思います。これからポストコロナ時代に入る中で、この危機感を忘れては行けないと思います。そのためにも、このような感染症予報サービスが定着し、根付いていくことが重要ではないかと考えています。
―さいたま市が描く未来図は?
スマートシティの実現に向けて様々なデータの利活用を検討しています。例えば、感染症予報のデータを別のサービスから生まれるデータと組み合わせることで更に市民の方々が快適・便利で安心・安全な生活をおくれる新たなサービスが創出できると考えています。しかし、そのためには、サービスを認知してもらうことが重要となってきます。社会のニーズが多様化し、変化のスピードも早くなっている中、行政が発信する情報量がどうしても増えてしまいますので、家族や個人単位で必要となる情報だけを提供できるようにしていくことも必要と考えています。一方、感染症予報に関しては、より多くの市民に認知いただきたいサービスとなりますが、行政だけで情報を伝達することは限界がありますので、民間企業との取り組みを通してより多くの露出を増やしていく必要があります。その取組により、いつか当たり前に「感染症は予報をみて予防するもの」と認知され、感染症が限りなく少ない世の中になることを望んでいます。
「感染症予報サービス」動画が公開されています
「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD」
「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD」